タムケンブログ

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金原ひとみ最新作『ハイドラ』は本格的ヤンデレ小説(だと思う)

ハイドラ


本が好き!より献本。ありがとうございます。

ストーリー

主人公の早希は有名写真家新崎の専属モデル。といっても彼女自身の名前が前面に出ることはない。ひどい言い方をすれば、読モあがりの年増モデル。んで、その写真家と同棲している。でも彼は恋人らしく寄り添ってくれる事もなくて、ただ淡白な性交渉のみで繋がっているだけ。仕事のためといって結婚など考えようともしない。それでも彼女は彼の言うがままにだけ行動する。実体がなくなってしまうことを恐れて、彼の言いつけ通り痩せ続けようとする…。

今はやりのヤンデレ系。愛しても愛しても振り向いてくれない。愛しすぎて尽くしすぎて従いすぎてどんどん壊れていく。ただただ受動的に従って、縛られて、苦しんで。自分が傷つかないように受動的に会う人会う人に対して別人格を見せて、逃げて逃げて逃げて。

カオスに気付いてしまった瞬間の衝撃が超快感、な作品

身もココロもぶっ壊しながらの愛、みたいなのを描くのが彼女はとてもうまいと思う。そのトランスっぷりは本作も健在。でも『ハイドラ』は今までほど表現はぶっとんでなくて、一見すると誰の作品だかわからなかったりして、普通にぐいぐいハイスピードで読ませるなぁと思ったら、いつの間にか壊れた愛の奥のカオスがずっしりきてて、うわーって感じ。すごい巧い。

今までの作品は見た目から壊れている女性がよく描かれてた。恋人の真似して舌にでかいピアス入れる女とか、夜の街でアンダーグラウンドな遊びに励む女とか。見るからに痛々しいやつ。愛して愛して愛しまくるが故に身もココロも破壊して。

本作はそういうのではなくて、さらっと読むとそういうエグい表現はない。でもそのかわりによりいっそう精神を病んでしまった女性の話だから、気がついた瞬間の恐怖とか衝撃とかがすごい。すごい快感。

とりあえず「表現がぬるい」とか思っても金原作品が好きなタイプの人は最後まで一気に読み通すべき。最後にわかるから。

ファンタジーとしての金原小説

一見金原ひとみの小説っぽくない。でもやっぱ金原小説だと思ったのは、『蛇にピアス』とかもそうだったけど、あまりにも現実から浮いた世界を描いてるってこと。ファンタジーみたい。ありそうだけど、実感持てる読者とかたぶんあまりいないと思う。
本作も登場人物は作家とかモデルとかバンドマンとかばかり。細かい描写は美しいけれど現実感が僕には感じられなかった。この非実体感は自分の恋愛経験の乏しさに由来するのかしらとも思ったけど、たぶんほとんどの読み手から浮いていて、でも本質的なところは直感的に理解できたりして。

そういう点では、ファンタジーホラーと呼ぶべき作品なんじゃないかと思う。
非実体的だからこそ、枝葉が分からないぶん、物語の核になる力が直感的に心に突き刺さる。そんな読後感でした。

んで、おすすめかどうか。

金原ファンとヤンデレ萌えの人は買い。
病んでる系の作品(音楽とかでも。Coccoとか)が好きな人もちょっと購入検討してもよいかも。

まぁ過去作品の傾向的には2、3年で文庫化するだろうから、待ちもアリかもですね。



ハイドラ

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